土壁の最高品といわれている”聚楽壁”(じゅらくへき)。
現代では見かけなくなりましたが、昔は茶室や城などの歴史的建造物の壁に多く用いられてきました。
今回は伝統的な左官仕上げ、聚楽壁の歴史と魅力について解説していきます。
伝統的な左官仕上げ”聚楽壁”とは?
聚楽壁(じゅらくへき)とは、京都の西陣にある「聚楽第跡地」付近から採れる「聚楽土」を原料にして作られた土壁のことです。
現代ではあまり馴染みがなくなりましたが、京都を代表する土壁として、茶室をはじめとしたさまざまな建物に使用されてきました。
ここでは、「聚楽壁」について詳しく紹介していきます。
茶室や和風建築などの歴史的建造物に多く使われてきた
一般的な土壁は水に弱いものがほとんどです。
けれど聚楽壁は土壁であるにも関わらず耐水性が優れており、見た目も柔らかなことから数多くの茶室に使用されていました。
茶人として有名な「千利休」の茶室にも聚楽壁が使われていたと言われています。
茶室のほかにも、桂離宮や城などの歴史的建造物にも多く使用されてきました。
天然素材のみで作られている
聚楽壁は土壁の一種なので、作り方は土壁と変わりません。
聚楽土に、藁(わら)や麻、スサまたは細やかな紙、砂、水を混ぜ合わせて作られています。
人工物は一切入っていない「100%天然自然素材」です。
伝統的な左官仕上げ「聚楽壁」の魅力
耐水性に優れていることから、水を扱う茶室に好まれていた聚楽土ですが、好まれた理由は「美しい見た目」にもありました。
ここでは、聚楽土の魅力を紹介します。
職人技が試される美しい見た目
土壁は「粗塗り・中塗り・上塗り」の順番で何度も重ね塗りをして仕上げていくのですが、聚楽土は最後の上塗りの際に使われる素材です。
仕上げに塗る聚楽土の厚さは「2㎜」と決まっており、全体の厚さが2㎜になるように色ムラなく均等に塗っていかねばなりません。
万が一作業中に傷やムラができてしまうとすべてやり直しになるので、左官職人の高い技術が求められます。
そんな高い技術を持って慎重に作られた聚楽壁だからこそ、仕上がりも美しく、日本特有のわびさびを感じさせてくれるのでしょう。
貴重な聚楽土から作られている
職人の高い技術が必要になる聚楽土ですが、原料となる聚楽土がとても貴重な素材であることも魅力のひとつです。
聚楽土は一般的な土壁の原料となる土のように、どこでも採れるわけではありません。
先ほども書いたように、聚楽土は京都西陣の「聚楽第跡地」付近でしか採ることができないのです。
さらに、「聚楽第跡地」付近を掘ればどこでも聚楽土が出てくるわけではありません。
聚楽土はごく限られた場所からしか採れない、とても貴重な土なのです。
そのため、現代では聚楽土が手に入りづらく、歴史的建造物の改修工事や特別な住宅のみに使用されてます。
調湿性能・耐火性能に優れている
聚楽壁は一般的な土壁と違い、調湿性能と耐火性能に優れています。
湿度が高い日には壁が湿気を吸収し、乾燥している日には湿気を放出するので、室内を快適に保つことができます。
茶室は城主だけではなく、客人も招いて茶を楽しむ場所。
茶室内を快適に保つことはとても大切です。
見た目だけではなく、このような調湿効果もあることから、客人をもてなす茶室の壁として好まれたのではないでしょうか。
また、聚楽土は耐火性能も優れています。
融点は「1,250度」ととても高く、火事になっても燃えにくいのです。
現代のように消火設備が整っていなかった時代では、聚楽壁のような耐火性能を持っている素材は重宝されました。
消臭効果を持っている
先ほど聚楽土には調湿性能があると説明しました。
調湿性能があるということは「消臭効果」も期待できます。
聚楽壁は湿気と一緒にニオイも吸収・分解し、きれいになった空気のみを放出しているのです。
現代のように、空気清浄機や芳香剤がなかった時代、窓を開けて行う換気でしか空気の入れ替えができなかったので、自然にニオイを取り除ける性能は重視されたはずです。
聚楽壁を取り入れたいならクロスを使う
見た目・性能ともに魅力の多い聚楽壁ですが、現代ではとても貴重な素材になってしまいました。
一般住宅に取り入れるのは難しいのですが、「聚楽壁風」のクロスであれば一般住宅にも取り入れることができます。
聚楽壁クロスの素材はビニールクロスなので、本物の聚楽壁と同じような「調湿・耐火・消臭」性能はありませんが、「防カビ・不燃」などのビニールクロス特有の性能を持っています。
また、本物の聚楽壁のように重ね塗り・薄塗りの必要がなく、クロスを貼り付けるだけなので技術は問われず、簡単にDIYすることができます。
まとめ
美しい見た目だけではなく、「調湿・耐火・消臭」性能を持っている聚楽壁。
現代のように設備や家電などが備わっていた時代だからこそ、重宝されたのでしょう。
残念ながら、現代では本物の聚楽壁を手に入れることは難しくなってしまいました。
けれど、見た目だけであればクロスで取り入れることができるので、聚楽壁風の部屋を楽しみたい方はクロスを使ってみてください。