建築物をつくるときに欠かせない材料のひとつにモルタルがあります。
通常のモルタルは、セメントと砂、水などの原材料を混ぜ合わせてつくる材料のことで、セメントモルタルともいいます。
また、モルタルと呼ばれる材料にはいくつかの種類がありますが、「無収縮モルタル」もそのひとつです。
では、「無収縮モルタル」とは、具体的にどのような材料なのでしょうか?
そして、通常のモルタルとはどのような違いがあり、どのような用途で使われるのでしょうか?
そこで今回は、「無収縮モルタル」について、通常のモルタルとの違いや用途などを徹底解説したいと思います。
無収縮モルタルとは?
無収縮モルタルとは、その名の通り収縮しないモルタルのことをいいます。
混和剤に膨張材を含むことで収縮を抑えており、ひび割れが起こる可能性がきわめて少ないことが大きな特徴です。
無収縮モルタルの種類は2種類
無収縮モルタルには、以下の通り大きく2つの種類があります。
・グラウト
・パッド
グラウト
グラウトは、型や隙間などに流し込んで充填するための液体材料の総称になります。
グラウト材にはいくつかの種類があり、建築物には収縮のない無収縮モルタルが用いられることが一般的です。
液状で流動性が高いため、型や隙間などへ流し込むと隅々まで十分に行きわたり、硬化した後も安定した無収縮性を発揮します。
パッド
パッドは、グラウトのような流動性はなく、通常のモルタルのようにコテで施工する固練りのタイプとなります。
無収縮モルタルのおもな特徴
無収縮モルタルのおもな特徴について簡単にご紹介いたします。
強度が高い
練り混ぜ水の一部が分離して遊離するブリーディング現象が起こらないため、硬化しても空隙が起こりにくく構造物としっかりと一体化して高い強度を発揮します。
また非常に短い期間で実用強度が得られることも特徴となります。
劣化しにくい
無収縮モルタルは、高温および低温に比較的強く、厳しい環境下でも品質が低下しにくい材料です。
また、隙間のない仕上げを実現できるため、劣化の原因となる雨水などの侵入も起こりにくく、長寿命化が期待できます。
施工性がよい
液体状の材料であるため、流し込むだけで隅々まで行きわたる施工性のよさがあります。
ただし、注入には専用の器具を用いなければならない場合もあり、一定程度の専門的な知識や技術は必要となります。
材料コストが高い
無収縮モルタルは、きわめて高性能であることから材料コストも高くなります。
通常のモルタルの数倍程度のコストとなるため、無収縮モルタルが持つ性能を必要とする重要部分だけに使用するケースが一般的です。
無収縮モルタルと通常のモルタルとの違い
通常のモルタルは、セメントに砂と水を加えて混ぜ合わせてつくる材料で、乾燥すると収縮してひび割れを起こしやすい特徴があります。
硬化すると非常に強度が高く、また使い勝手のよい優れた材料ですが、収縮が生じることは重大な弱点です。
一方、無収縮モルタルは、混和剤に膨張材を含むことで収縮を抑えており、硬化後もひび割れが起こりにくい点で大きな違いがあります。
建築物には充填後に収縮が起こると都合が悪い部分は多く、そのような場所に使用すると絶大な効果を発揮します。
無収縮モルタルのおもな用途
無収縮モルタルは、建築工事のあらゆる用途に使われています。
ただし、材料コストが非常に高いため、広い範囲に使用されるケースはほとんどありません。
とくに安定的に強度を必要とする構造などを補強する目的で用いることが一般的な用途となります。
多くの用途のなかから、その一部について以下にご紹介いたします。
・鉄骨柱ベースと基礎の接合
・耐震補強
・コンクリート構造物の補修
鉄骨柱ベースと基礎の接合
鉄骨造の建物に使用する鉄骨柱は、柱脚部のベースプレートと基礎に定着しているアンカーボルトをしっかり固定する必要があります。
このとき、ベースプレートと基礎の接合部分に無収縮モルタルを注入すると、安定的に一体化させることが可能になります。
耐震補強
既存のコンクリート構造物の耐震補強をする場合、鉄骨ブレスなど補強材を設置する方法が効果的です。
まず、補強材を設置する部分に穿孔してアンカーを取り付け、そこに補強材を固定します。
コンクリート構造物と補強材の接合部分に型枠をつくって無収縮モルタルを注入すると、安定的に一体化させることが可能になります。
コンクリート構造物の補修
コンクリート構造物は、経年とともに劣化し、ひび割れなどの症状が現れますが、適切な方法で補修することで構造物の長寿命を図れます。
補修するときに無収縮モルタルを使うと隙間なく補修できるため、その後の水分侵入などを効果的に抑えられます。
そのため、ダムや堤防など耐水性を必要とするコンクリート構造物などの補修材としては、とくに適した材料です。
まとめ
無収縮モルタルは、建築物のあらゆるシーンで使われている使い勝手のよい材料です。
しかし、材料コストは、通常のモルタルと比べてもけた違いに高い点は注意しておく必要があります。
よって、無収縮モルタルを使用するのは、性能がともなわなければならない重要部分のみとするなど、検討することも必要になるでしょう。