普段使っている鏝(こて)には、どんな歴史があるかご存知でしょうか。
鏝の始まりは、奈良時代だとされています。
いつも使っている道具のルーツを知ると、道具も今までとは少し違って見えてくると思います。
今回は左官鏝の歴史を、左官の歴史とともに解説していきます。
終わりには、日本の左官鏝と海外の鏝の違いについても少し触れていきます。
左官鏝の歴史について
現代では当たり前のように使っている左官鏝ですが、いつから日本で使われるようになったのでしょうか。
そして、左官にはどんな歴史があるのでしょうか。
ここでは、左官と左官鏝の歴史を解説していきます。
左官の始まりは縄文時代にさかのぼる
まずは左官鏝の歴史の前に、左官の歴史から振り返ってみましょう。
左官工事の始まりは、竪穴式住居で暮らしていた縄文時代までさかのぼります。
竪穴式住居の壁は、土塀(どべい)でできていました。
土塀は生の土を団子状に丸め、積み重ねるようにして作られており、この作業が左官の始まりだと言われています。
その頃はもちろん左官鏝などの道具は一切なく、作業は全て「手の平」で行っていました。
飛鳥時代になると土壁が使われるように
飛鳥時代になると、土に砂や藁(わら)を混ぜて作った土壁や、石灰を使った白い壁などが使われるようになります。
飛鳥池遺跡から木鏝が出土されたことから、飛鳥時代には木鏝が使われていたと推測されています。
木鏝には現代の鏝のような柄首はなく、一本の木から削り出して作られていました。(史料には残されていないため諸説あります)
奈良時代には左官鏝が渡来
奈良時代には仏教が伝来するとともに、これまでに日本にはなかった新しい建築技術も導入されました。
現代も使われている左官鏝のルーツとなったものは、このとき持ち込まれたものだと言われています。
よって、奈良時代が左官鏝の始まりだと言えるでしょう。
そして、伝来した新しい建築技術によって多く建てられたのが、「寺院」です。
寺院の壁には「土壁・漆喰」などが使われており、土や漆喰を塗る際にも左官鏝が使われたと言われています。
安土桃山時代には聚楽壁が使われるように
安土桃山時代になると、その頃に土に色をつけた「色土(いろつち)」が用いられ、色土に砂や繊維を混ぜたりすることで、いろいろな表現ができるようになりました。
現代では貴重な「聚楽壁(じゅらくへき)」が茶室に使われるようになったのも、安土桃山時代です。
聚楽壁は、「聚楽土・藁(わら)・麻・紙・スサ・砂・水」の複数の素材を混ぜ込んで作られています。
現代では聚楽土が取れにくくなってしまったため、聚楽壁はとても貴重なものとなってしまいました。
道具は職人の腕がわかる大切なものだった
かつての京都では、正月になると仏前に手入れされた左官鏝道具を入れた道具箱を供え、先祖に感謝の念を表していました。
現代でも左官鏝は、「見れば職人の腕がわかる」と言われるほど大切なものですが、それは今も昔も変わらないということですね。
現代の左官鏝について
ここまでは、左官と左官鏝の歴史についてお話しました。現代では、左官鏝はどのような使われ方をしているのでしょうか。
用途によって使いわけ、数えきれないほどの種類がある
奈良時代に伝来した左官鏝ですが、現代では使用する場所や素材、表現する模様によってさまざまな種類の鏝を使い分けています。
・仕上げ鏝
・角鏝
・中塗鏝
・木製鏝
・レンガ鏝
・ブロック鏝
など…書き出したらキリがないほど、さまざまな鏝が使用されています。
鏝の種類や使い方については、以下の記事を読んでみてください。
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海外と比べても日本の左官鏝は種類が多い
ヨーロッパでも古くから左官材料として「漆喰」が内外壁に使用されてきましたが、道具の種類は日本に比べるととても少ないのです。
なぜかというと、日本の塗壁材は壁を美しく表現するために使用しているのに対し、ヨーロッパでは建物の強度を増すために使用しているからです。
日本の木造建築は軸組で建てられているため、塗壁で強度を出す必要はありません。
そのため、内外壁は建物を美しく表現する部分として、意匠性の高い模様が施されています。
さまざまな模様を作り出すためには、模様に合わせた鏝が必要です。
よって、鏝の種類も数えきれないほどに、多くなっていきました。
一方で、ヨーロッパの住宅の建物にはレンガや石が使われていることが多く、強度が不安定なので塗壁材を分厚く塗って補強します。
補強を目的としているため、模様を出したり意匠性を高める必要はないので、日本に比べて鏝の種類がとても少ないのです。
左官鏝は職人の腕を表す大切な道具
奈良時代に日本に伝来した鏝は、初めは種類も限られていましたが、左官の技術が発展するとともに、さまざまな種類が増えていきました。
また、鏝の種類が増えていった背景にも、日本の内外壁に施されている高い意匠性が関係していることがわかりましたね。
現代では当たり前のように使っている鏝ですが、その歴史を知ることで、より一層道具への愛着がわくのではないでしょうか。