一材型・二材型ポリマーセメントモルタル(セメント系下地調整塗材に特化して)の違いについて

[著]
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前号の樹脂モルタルに関連しまして、今号ではポリマーセメントモルタルの一材型と二材型の違いについて解説します。
カチオン性ポリマーセメントモルタルの先駆的商品、弊社の『カチオンタイト』等についても触れますので必読です。

ポリマーセメントモルタルができた背景

セメントモルタルはセメント+砂に対して水を混ぜることにより硬化組織を形成します。水だけで練り上げたものをプレーンモルタルと一般的に言います。これは硬化途上において収縮を伴うため、下地との界面で空隙ができ密着性を欠きます。そこで、この水硬性硬化体の改質を図る目的でポリマー(合成樹脂)を利用する技術が開発されました。ポリマーを充填することにより緻密な構造体になるので、下地に対する密着性のみならず、曲げ強度及び耐摩耗・耐薬品性、防水性が高まります。国内においては、1960年代から建築現場において、二材型ポリマーセメントモルタルが使用され始めました。

二材型ポリマーセメントモルタルとは?

セメントと砂等で構成されている主材と硬化液であるエマルジョン(合成樹脂の粒子が水中に均一に分散している液体)を混ぜて使用します。下記商品が代表的商品です。

日本化成㈱様 『ハイフレックスHF-1000』(硬化液)

1970年発売のモルタル吸水調整剤兼接着増強剤の代名詞。エチレン酢酸ビニル系エマルジョンです。
セメントと砂等に混合して使用します。主にコンクリート・モルタル下地に塗るポリマーセメントモルタルの硬化液として使用します。長期間優れた接着強さを維持します。

http://www.nihonkasei.co.jp/products/plastering.html

昭和電工建材㈱様 『ハイモル補修用』(主材)


1973年発売の初の既調合モルタルとして有名です。ポルトランドセメントに焼成軽量骨材、繊維、混和剤等を配合した、コンクリート・モルタル下地専用の1~5㎜厚を補修する軽量モルタルです。吸水調整剤兼接着増強剤を混合することでポリマーセメントモルタルとしてお使い頂けます。

https://www.sdk-k.com/dobokuzai_kp/download/cat_sakan/hosyu.pdf

弊社ヤブ原産業 『カチオンタイトシリーズ』(主材+硬化液)

1976年発売。通常のセメントモルタルやポリマーセメントモルタルでは接着しづらい下地(陶磁器タイル、合成樹脂塗り床、吹付タイル、ガラスブロック等)に強固に接着する、セメント系下地調整塗材です。セメントと砂にポリマーを加えるだけでなく、ポリマーが陽電子を帯びていることから、電気的にも下地に接着しやすくなるモルタルです。“カチオン”という言葉を建築業界に知らしめた製品です。カチオン系ポリマーセメントモルタルとして、初めて主材と硬化液を1梱包にした製品です。

https://www.yabuhara-ind.co.jp/products/cationtite/

一材型ポリマーセメントモルタルとは?

セメント系主材の中に再乳化形粉末樹脂(パウダーポリマー)が混入されており、現場で水だけを混ぜて使用します。再乳化形粉末樹脂は、水と接すると核となるポリマーが乳化・分散しエマルジョン化(合成樹脂の粒子が水中に均一に分散している液体)します。樹脂の種類は酢酸ビニル系とアクリル系がその多くを占めます。再乳化形粉末樹脂が開発されて半世紀以上が経過しますが、性能が向上し現場でも安心して使用され始めたのはここ25年程です。
国内での用途は下地調整モルタルに最も多く使用されています。その他にはタイル接着モルタルやSL材(セルフレベリング材)等です。下記商品が代表的商品です。

菊水化学工業株式会社様 『カチコテSP』


カチオン系ポリマーセメントモルタル。JIS A 6916 下地調整塗材適合品。コンクリートに対する付着性等に優れた薄塗り材です。

https://www.kikusui-chem.co.jp/products/p082.html

日本化成㈱様 『NSカチオンワンシリーズ』

カチオン系一材化下地調整塗材。JIS A 6916 下地調整塗材適合品。各種下地に対し安定した接着力を発揮する薄塗り材です。

http://www.nihonkasei.co.jp/products/repoint.html

弊社ヤブ原産業『タイトワンシリーズ』


一材型セメント系カチオン性アクリル樹脂モルタル。抜群の作業性を実現し、接着性・仮防水性に優れています。

https://www.yabuhara-ind.co.jp/products/cationtite/tightone-cote/

https://www.yabuhara-ind.co.jp/products/cationtite/tightone-roller/

弊社ヤブ原産業 『YS厚付けモルタル』


一材型厚付け用カチオン性ポリマーセメントモルタル。コンクリートやモルタルの欠損・爆裂部の断面修復、防水保護モルタルの不陸調整に適しています。

https://www.yabuhara-ind.co.jp/products/cationtite/ys-mortar/

一材型ポリマーセメントモルタル主材に含まれる再乳化形粉末樹脂の(パウダーポリマー)製造方法

端的に説明すると、水が蒸発した後に合成樹脂同士が接着しないようにする添加剤等を入れた、エマルジョン(合成樹脂の粒子が水中に均一に分散している液体)を専用の機械で吹き付けます。吹き付けた後に水が蒸発すると、添加剤等に覆われた合成樹脂(粉末樹脂)ができます。

一材型ポリマーセメントモルタルのメリット(長所)

・現場においてゴミの廃出量が少ない。荷姿は大方が紙袋とビニル袋のみなので、二材型で使用される金属缶やプラスチック容器等の廃棄物が低減される。
・現場での荷揚げ作業、輸送コストが低減される。
・凍結の恐れがほぼ無い。

一材型ポリマーセメントモルタルのデメリット(短所)

・混錬水の管理がしにくく、水の入れすぎによる物性低下を招く可能性がある。
・二材型と比べて、❶低温時の物性低下を招きやすい。❷耐水性・耐溶剤性が低い。❸再乳化形粉末樹脂のコストが高い。
・粉末樹脂の製造工程において、添加剤等が様々混入されるため、二材型と同じ樹脂量を混入しても純粋な樹脂量では劣る。
・ポリマー(樹脂)の粒径が大きいので、モルタルとして出来上がった際の緻密性(ミクロのレベルで)が低い。

まとめ

前述の通り、一材型は二材型に比べ性能が劣る傾向にあります。弊社のタイトワンシリーズもカチオンタイトシリーズに比べると、複数の種類の下地において接着強度が僅かに低いです。しかしながら、実用面でさほど問題は無く、カチオンタイトシリーズが使用できてタイトワンシリーズが使用できない下地は、合板だけにしています。
少し心配な下地の場合や決して問題が起きてはいけない現場の場合には、二材型(カチオンタイトシリーズ)を使用するという左官業者様は意外に多いのが現状です。それほどカチオンタイトシリーズは信頼性が高い商品です。
接着剤や塗料等も一般的に、一液タイプより二液タイプの方が性能において高い傾向にあります。しかしながら、メーカーの技術の向上により、一材型製品の性能は日々向上し、二材型製品との差は埋まりつつあります。現場において製品の性能だけでなく、廃棄物の量、環境に与える影響、コスト等の要素を踏まえて使い分けていくことが大切だと感じています。

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